ゆるドクの独り言

土砂災害の傷は小さくても甘く見てはいけない

ゆるドク
こんにちこんばんわ ゆるドク です。

2020年7月5日に大雨により熊本県の球磨川が氾濫してしまいました。

私もかつて同様の豪雨による土砂災害があった日に当直をし、夜通しで初期対応に当たったことがあります。

その時に私が経験した失敗をこの度思い出したので記録として残しておこうと思います。

当時の状況

次々に骨折した患者や家の倒壊に巻き込まれて足が切断された患者なども運ばれてきました。

1人での対応には限界があると判断し、すぐさま先輩と同僚の整形外科医を呼びました。

この点だけは当時の自分を褒めたいとおもいます。

そして手分けして切断肢の洗浄、再切断や開放骨折の創外固定などをおこなっていました。

ただ、その反面骨折をしていない患者は救命センターの先生に任せていました。

「傷を洗い、見える範囲でデブリードマンをして、きれいになれば縫合しておけば大丈夫」

などと軽く見ていました。

しかし、翌日行ってみると救命センター内の病室は泥のような匂いで充満していました

泥の中から助け出されたため、当然風呂なども入れていないためそのような匂いがしていたのかと思っていましたが、その翌日も同様の匂いがしていました。

傷の中が洗えていないのではと思いましたが、救命センターの先生が縫合する前に撮られた写真には泥などははっきりとは見えませんでした。

患者は【傷ではなく、傷より10-20cm離れた部位】に痛みを訴えていました。

そして、その場所に発赤、熱感、圧痛が出現しており、血液検査でも高い炎症反応を認めていました。

この写真の方は発赤はそれほどでもありませんが、表皮剥離よりも中枢側の痛みを訴えられておりました。

縫合した部位もnecrosisが起きているのでそもそもデブリードマンが不十分だった可能性はあります。

何が起こっていたのか?

結果から言うと

『水圧により泥が筋膜に沿って侵入し、広範囲に渡って汚染されていた。』

そのため、創を延長しデブリードマンを追加しました。

さらにVAC療法や患者によっては有茎皮弁術や遊離皮弁なども行いました。

(これらの手術は自分で行ったのではなく、顕微鏡手術にも慣れている特殊な外傷チームにお願いしました。写真を持っていないので載せることができず残念です。)

今後、豪雨災害・土砂災害の患者が来た場合はどうするか?

まず骨折の有無を確認することはもちろんですが、小さな傷も見落とさないようにすることが大事だと思います。

傷がある場合は

傷から離れた部位も圧迫や把握をするなどして筋膜の損傷や感染がないかを確認する

筋膜の感染が疑わしい場合は躊躇うことなく創を延長してのデブリードマンを行うことが大事です。

当時、匂いは重要なサインとなりました。

翌日も泥の匂いがする場合はデブリードマン不足が強く疑われます。

躊躇せずに再手術を行いましょう。

災害は起こらないことが一番ですが、その災害で得た知識は忘れてはいけません。

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  • この記事を書いた人

脊本 侑(ゆるドク)

アラフォー勤務医
医学博士 ❘ 整形外科専門医
脊椎脊髄指導医 ❘ 脊椎脊髄病医 ❘ 難病指定医
医療ライター ❘ Webディレクター
オンライン美容皮膚科にも勤務
広島東洋カープファン
『ゆるく生きる』がモットー
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